ドイツでの成功を手に、昨季からプレミアリーグへと足を踏み入れたブライトンの若き指揮官、ファビアン・ヒュルツェラー。1年目となった2024-25シーズンのリーグ戦を16勝13分9敗の勝ち点61、8位の成績で終えた。
あと一歩で欧州カップ戦への切符を逃す結果となった昨季を、ヒュルツェラーはどのように振り返っているのか。そして昨季に得た学びを、新たなシーズンでどう活かそうと考えているのか。リーグ戦開幕が迫る2025年7月末のインタビューで、青年監督がその胸中を丁寧に言葉にしてくれた。
円熟味を増すウェルベックは「ワインに似た存在」
──あなたはブンデスリーガ2部優勝の経験を経て、プレミアリーグへ、それもブライトンのような先進的なチームに飛び込みました。この最初のシーズンを、今どのように振り返りますか?
ヒュルツェラー:おっしゃるとおり、ザンクトパウリでの昇格は非常に感動的な経験で、その一員であったことを大変光栄に思っています。あの機会を与えてくれたクラブと、私たちを支え続けてくれたファンには心から感謝しています。その後、私はブライトンへの移籍を決断しましたが、これは決してザンクトパウリに背を向けたわけではありません。それぞれ異なる挑戦であり、比較はできないのです。
新しい国、新しい言語、すべてが違う環境での挑戦でした。ですが、チームの仲間たちと共に、非常にポジティブな形で乗り越えられたと感じています。もちろん、良い時もあれば悪い時もありました。それでも、私たちは常に“一体感”を大切にしてきました。お互いの繋がりを常に感じていたんです。それが、このブライトンというクラブを特別なものにしている。ここには“個”よりも“我々”を重んじるカルチャー、強い一体感があります。その一員でいられることは本当に嬉しく、そして感謝しています。
来シーズンに向けては、昨シーズンの終盤に築き上げた土台をさらに強固なものにし、チームに“一貫性”をもたらすことを目指しています。振り返ってみると、結果における一貫性、そしてパフォーマンスにおける一貫性が、昨シーズンの我々にとって最大の弱点の一つでした。
ですが、全体として見れば、チームとしての仕事ぶりや、達成できたことには満足しています。もちろん、ヨーロッパの舞台に立ちたかったという思いはありますが、我々が積み上げた勝ち点を考えれば、非常に良いシーズンだったと言えるでしょう。
それでも、我々はさらに上を目指さなければなりません。選手一人ひとりが、自身のコンフォートゾーンから一歩踏み出す必要があります。全員がこれまで以上に努力することで、ファンの期待に応え、彼らを誇らしい気持ちにできるはずです。
──おっしゃる通り、勝ち点を見れば非常に力強いシーズンでした。ですが、サポーターの視点からすると、ヨーロッパ出場権を巡る争いが終盤まで非常に僅差だっただけに、悔しさを感じる気持ちも理解できます。先ほど“一貫性”という言葉も出ましたが、課題はどこにあると考えていますか?
ヒュルツェラー:“問題”という言葉は使いたくありません。むしろ“挑戦”だったのだと思います。異なる文化や年齢の選手たちが集まる中で、いかに早くグループとしての一体感を醸成するかという挑戦です。
いくつかの場面で、我々は少しナイーブだったのかもしれません。経験が不足していた瞬間もありました。チームにはプレミアリーグ初挑戦の選手が非常に多かったですからね。若い選手たちが成長するためには時間が必要で、経験を積むためにはミスをすることも受け入れなければなりません。それが昨シーズン、我々が得た学びであり、成長の過程だったのだと思います。
おっしゃる通り、ヨーロッパ出場を逃したことには全員がっかりしました。ですが、それは問題があったからではなく、その瞬間に我々が挑戦に打ち勝てなかった、逆境に立ち向かう準備ができていなかった、ということです。だからミスが生まれてしまった。それこそが、今シーズン我々が改善しなければならない点です。
──ブライトンには、非常に魅力的な選手が多く在籍しています。その一人がダニー・ウェルベックです。イングランドで素晴らしいキャリアを築いてきた彼ですが、昨シーズンはここ数年で見られなかったほどゴールを記録し、最高のフォームを取り戻したように見えました。
ヒュルツェラー:彼が昨シーズン、あれほど素晴らしい結果を残せたのには、大きく二つの理由があると考えています。
一つ目は、彼自身のプロフェッショナリズムです。彼はすべてのトレーニングに対して、模範となるアスリートのように準備をします。そして、トレーニング後のケアも同様です。ピッチ内外での振る舞いは、常にチームを支える素晴らしいチームプレーヤーそのものです。彼はすべての若い選手にとってのロールモデルなんです。
そして二つ目は、我々のメディカルスタッフの素晴らしい仕事です。これまで彼は、あれほど多くの出場時間を、怪我なくコンスタントにプレーしたことはなかったはずです。つまり、彼の活躍はチーム全体の一体感が生んだ結果なのです。メディカル部門の貢献と、ダニー・ウェルベック自身の偉大なプロ意識、そして人間性。これらが合わさって実現しています。
──彼は今やプレミアリーグで最も経験豊富な選手の一人であり、アーセナルやマンチェスター・U時代と並ぶくらい、あるいはそれ以上の数の試合に出場しています。いわば、クラブの“長老”のような存在へと進化を遂げたわけですね。
ヒュルツェラー:ええ、本当に素晴らしいことです。彼がこのクラブの一員であり、ここを本当の故郷のように感じているのが伝わってきます。こうした感覚は、サッカー界では決して当たり前のものではありません。「自分はここで評価されている」「ここでは自分らしくいられる」という感覚は、ダニーのような選手にとって非常に重要なのです。
彼は少し、ワインに似ていますね。年を重ねるほどに、どんどん良くなっていく。まさに彼にぴったりの言葉だと思います。彼と共に仕事ができることに、心から感謝しています。
──もう一人、カルロス・バレバについてもお聞きします。彼にとっては2シーズン目でしたが、ピッチ上で確固たる存在感を示し、真のブレイクスルーを果たしたシーズンだったように感じます。選手としての彼の成長についてはいかがでしょうか?
ヒュルツェラー:彼はまさに、我々の昨シーズンを象徴するような選手でした。素晴らしい活躍を見せたかと思えば、少し落ち込む時期もあった。彼にとっては、ブライトンで本格的にスターターとしてプレーする初めてのシーズンだったと言えます。チームにとって、非常に重要な存在になったのです。
立場だけでなく、チームのシステム上重要なポジションを担う。これは彼にとって大きな挑戦だったはずです。多くの責任を背負った彼のパフォーマンスには、その影響が見て取れました。驚くような素晴らしいプレーを見せる試合もあれば、少し調子を落としてしまう試合もあったのです。これこそが、先ほど話した“一貫性の構築”と関係します。
彼は若く、素晴らしい才能の持ち主です。昨シーズンの経験から学び、必ず成長してくれるでしょう。我々の責任は、彼が自分自身を最大限に表現し、ピッチ内外で最高の選手、最高の人間になれる環境を提供することです。
「カルチャーが振る舞いを生み、振る舞いが結果を生む」
──今は7月末、プレシーズンも本格化し、新シーズンが目前に迫っています。重要な選手の退団もあれば、新たな才能の加入もありました。今夏はクラブにとって、ある種の“変化の夏”だったようにも感じます。
ヒュルツェラー:全体として、素晴らしい夏を過ごせたと感じています。もちろん、チームを去った選手もいますし、その中には非常に重要な選手も含まれていました。ですが、ブライトンの最大の強みの一つは、そうした変化を常にチームとして補える点です。
我々は、一人の選手を別の個人で置き換えることはしません。素晴らしいクオリティを持っていた選手の穴を、たった一人の選手で埋めるのは不可能です。一方で、グループとして、一体感をもってその穴を埋めることはできます。
それこそが、我々が常にやろうとしていることであり、今シーズンの目標でもあります。退団した選手たちの穴を、この一体感とグループの力で埋めていくのです。それは昨シーズンも証明してきたことですし、今シーズンも再び証明してみせます。それが、ブライトンというクラブのやり方だからです。
同時に、我々がすべての選手を売却するわけではない、ということも理解していただきたい。今シーズンも、非常に重要な選手たちにいくつかのオファーがありましたが、クラブは彼らを売りませんでした。これは我々が野心を持ち、何かを成し遂げたいと本気で考えている表れです。オファーがあれば誰でも売るというわけではない。我々が正しい道を進んでいる証拠だと考えています。
──ローン移籍からの復帰も含め、多くの新加入選手がいます。なかでも前線に加わったギリシャ出身の二人、クストゥラスとツィマスについて、彼らはどのような選手でしょうか?
ヒュルツェラー:まず、二人とも素晴らしい人間性の持ち主です。でなければ、ブライトンの選手にはなれません。そして昨シーズン、それぞれのクラブで即戦力として大きなインパクトを与えました。
彼らは共に大きなポテンシャルを秘めています。そのポテンシャルを最大限に引き出すことが、私やスタッフの仕事です。そのために最も重要なのは、彼らがこのクラブに溶け込み、プレミアリーグの新たなインテンシティに適応するのを助けることです。それさえできれば、ピッチで素晴らしいプレーを見せてくれると確信しています。
──もう一人、非常に楽しみな新加入選手がディエゴ・コッポラです。多くのスカウトが、U-21欧州選手権の前にブライトンが彼との契約をまとめられたことを絶賛していました。もし大会後だったら、獲得は難しくなっていたかもしれない、と。彼はどれほど優れた選手で、将来的にどんなポテンシャルを秘めているのでしょうか?
ヒュルツェラー:彼のこれまでのキャリアは、本当に素晴らしいものがあります。非常に若いにもかかわらず、セリエAで既に80試合以上に出場しているのですから。それは日々のトレーニングを見ても明らかです。彼は守り方を知っている。まさに典型的なイタリア人ディフェンダーであり、優れたアスリートでもあります。ゲームに対する理解度も高いですよ。
一方で、課題はボールを持った時のスキルの向上です。我々はボールを保持して相手を支配したいと考えており、その点では彼にまだ伸びしろがあるでしょう。
ですが、私が何より感心しているのは、彼の勤勉さです。チームに来た初日から、一秒たりとも無駄にしない。ハードワーカーであり、真のイタリアンDFです。これから彼と一緒に仕事をしていくのが、本当に楽しみですよ。
──毎年言われることですが、来たるシーズンはこれまでで最も競争の激しいプレミアリーグになるように感じます。このような環境の中で、ブライトンのようなクラブは、どのようにして限界を突破し、ビッグクラブに挑戦し続けていくのでしょうか?
ヒュルツェラー:我々が影響を与えられること、コントロールできることを、最高レベル、最高の基準でやり続けることです。
最高のアナリスト、最高のメディカル部門、そしてピッチ内外で最高の勤勉さを持った選手たちを集めること。これらはすべて、我々自身がコントロールできる要素です。つまり、共に働く人々を正しく選ぶことが重要であり、その点においてブライトンは非常に優れていると思います。
繰り返しになりますが、大事なのは“一貫性”です。一度きりでなく、毎日、毎週、毎月やり続けること。そして、目先の“結果”に一喜一憂しすぎないこと。結果ばかりに目を向けると、“プロセス”への集中がおろそかになります。ブライトンは、このプロセスに集中することが非常に得意なクラブです。
我々がやるべきなのは、その日々の基準をさらに押し上げることです。理学療法士であれ、アナリストであれ、あるいはキッチンで働くスタッフであれ、全員が「私は選手にとって最高のサポーターであり、最も高いレベルの挑戦者でありたい」という姿勢を持つこと。そうした姿勢を、私は選手たちにも求めます。「毎日トレーニンググラウンドに来て、最高の自分になる努力をしろ」とね。
このカルチャーこそが、我々を突き動かす原動力なのです。正しいカルチャーがあれば、正しい振る舞いが生まれる。正しい振る舞いがあれば、結果は必ずついてくると確信しています。それが、我々が毎シーズンやろうとしていることであり、今シーズン、より高いレベルで実行すべきことなのです。