『対岸の家事』多部未華子“詩穂”の優しさが結実した最終回。誰もが自分の道を誇れる未来へ向かう
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『対岸の家事』多部未華子“詩穂”の優しさが結実した最終回。誰もが自分の道を誇れる未来へ向かう

2025.06.04 12:30

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TBS系火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』。6月3日に放送された最終話では、詩穂(多部未華子)、礼子(江口のりこ)、中谷(ディーン・フジオカ)がそれぞれの遺恨と向き合った。最後は全員が「これが、私の生きる道!」と胸を張って進む大円団を迎え、視聴者からは感動の声が上がっている。

※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。

時代の“こうあるべき”に囚われ、自分も他人も追い込んでしまったシングルマザーのはるか(織田梨沙)。彼女との出会いをきっかけに、詩穂は自分に家事を押し付けた父・純也(緒形直人)の気持ちを少しだけ理解できるようになる。

一方、中谷も育休を取得し、主夫業に専念する中で佳恋(五十嵐美桜)に手を上げそうになったことから母・理恵(長野里美)の苦悩を知った。家庭を顧みない夫に直接不満をぶつけるのではなく、家事と育児を完璧にこなすことで自尊心を満たそうとした理恵。

彼女も、純也もきっと「男は外で働き、女は家事をする」という当時の世間一般的な家族のあり方に囚われていたのだろう。だが、相手の気持ちを理解できるようになったからといって、許せるとは限らない。

いくら純也と理恵に言い分があっても、詩穂と中谷が受けた苦しみは決して矮小化できないものだ。詩穂は自分が親になったからこそ、子供の人生を犠牲にした純也を許す気になれなかった。

『対岸の家事』最終回
(C)TBSスパークル/TBS (C)朱野帰子/講談社

そんな詩穂の心に波紋を起こしたのは、変わった父の姿だ。虎朗(一ノ瀬ワタル)、苺(永井花奈)と家族写真を撮影したことを一つの区切りとし、数十年ぶりに実家を訪れた詩穂のために純也はコロッケを作る。

子供の頃、詩穂が亡き母(紺野まひる)によくリクエストしていたコロッケは前回、話題に上がったポテトサラダと一緒でかなり手間がかかる料理だ。家事をする側になり、そのことを知った詩穂。

「家事なんて、その気になれば誰でもできる」とどこかで思っていた純也もまた、詩穂が出ていき、必要に駆られて家事を始めたことで、その大変さを身をもって実感した。ノルマや納期があるわけではない。だが、家族を大切に思えばこそ手を抜けないのが家事だ。詩穂も仕事を頑張っている純也のために歯を食いしばって、日々家事に励んでいた。

『対岸の家事』最終回
(C)TBSスパークル/TBS (C)朱野帰子/講談社

「1日でいい、誰かにご飯を作ってもらいたい」という詩穂の願いを、今の純也は理解できる。純也はあの頃、当たり前と思っていた詩穂の働きに感謝を告げ、「また誰かの作ったご飯が食べたくなったら、俺で良ければいつでも作るから」と送り出した。

そんな純也を“おじいちゃん”として苺に紹介した詩穂。詩穂に抱かれた苺が純也に伸ばした手が、長らく分かたれた父娘の道に橋をかける。

一方、許しを請う理恵に「いつか母さんに会いたいと思える時が来たら僕から連絡するから、それまでは訪ねてこないで」と伝えた中谷。1年後か10年後か、あるいは永遠に訪れないかもしれない。今はまだ癒えぬ心の傷。それでも中谷は「待つ」という権利を理恵に与え、理恵は中谷の思いを尊重した。

そんな風に「許す」と「許さない」の間には無限のグラデーションが広がっている。どこまでも人と人を対立構造に落とし込まない、本作らしい結びだった。

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(C)TBSスパークル/TBS (C)朱野帰子/講談社

その頃、量平(川西賢志郎)の転勤先についていくことを決めた礼子(江口のりこ)は引っ越し準備と仕事の引き継ぎに追われていた。仕事を辞め、主婦になることに迷いはないつもりだったが、同僚の今井(松本怜生)から投げられた「今ここで辞めるのがトゥルーエンドとは思えない」という言葉が引っかかる。

そんな矢先に迎えた七夕の日。村上家、長野家、中谷家の3家族に加え、はるかと晶子(田辺桃子)も呼び、礼子たちの送別会も兼ねて賑やかにパーティーが行われる。それぞれが短冊に願い込める中、「詩穂ちゃんはこれからも専業主婦やっていくの?」と尋ねる礼子。

詩穂はこれまでは迷いがあったが、今は家事が楽しいと思えるようになったことを打ち明け、「苺に楽しく生きている私を見せられたら」と語る。その瞬間、礼子は何かを決意したかのように立ち上がり、「私、会社辞めません!ここに残ります!」と宣言した。

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自分さえ我慢すれば、全て丸く収まる。礼子は今までそう思っていたのだろう。しかし、仕事に未練がある状態で専業主婦になれば、きっとどこかで無理が出る。変わらず仕事を続ける夫に強く当たったり、中谷の母みたいに子供に全力で寄りかかってしまうかもしれない。そうでなくとも、ため息をついて生きる自分の背中を礼子は子供たちに見せたくなかった。

子どもたちが仕事と家事の両立で苦しむ未来を作らないためにも、その実現を諦めないと決めた礼子はやっぱりかっこいい女性だ。でも、それを頑張るべきは礼子だけじゃない。

「家族みんないつも笑っていられますように」と短冊に書いた量平。そのためには誰か一人が犠牲になるのではなく、みんなが少しずつ歩み寄る必要がある。量平は礼子の意思を尊重し、転職して家族全員で暮らしていく道を模索することにした。

官僚の中谷に礼子が「頼むよ!」と託すシーンも印象的だ。本人の意思を無視した転勤制度をはじめ、共働きが主流となった現代にはそぐわない仕組みがあぶり出されつつある。国も「昔はそれが当たり前だった」と思考停止に陥るのではなく、時代に合わせて制度を改革していく必要があるのだろう。

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(C)TBSスパークル/TBS (C)朱野帰子/講談社

私たちは皆、時代の過渡期を生きている。減少傾向にある専業主婦という生き方を自ら選び、虎朗と苺のために日々家事をする詩穂。量平と共働きで、篤正(寿昌磨)と星夏(吉玉帆花)の2人の子を育てる礼子。バリキャリの樹里(島袋寛子)の代わりに育休を取り、佳恋を育てる中谷。蔦村医院の若先生(朝井大智)に嫁ぎ、保育士としての経験を患者のために生かす晶子。結婚を望まず、未婚の母となったはるか。

時代の“こうあるべき”はどんどんなくなり、自分で自分の道を選べるようになった。しかし、どんなに時代が変わっても、誰も家事からは逃れることができない。誰かがやらなければならず、死ぬまで終わらない家事とそれぞれが各々のやり方で向き合っている。

その中で疲弊し、弱音を吐こうものなら、「自分で選んだ道でしょ?」と責められがちな昨今。本作は対岸に橋をかけ、家事で燃え尽きそうになっている人たちに肩を貸す詩穂の姿を通して、そんな自己責任論にNOを突きつけた。

『対岸の家事』最終回
(C)TBSスパークル/TBS (C)朱野帰子/講談社

“家族団欒”という花言葉を持つ紫陽花。詩穂がかつて散々苦しめられた家事を楽しいと思えるようになり、「やっぱり一番紫陽花が好き」と言える今があるのも、坂上(田中美佐子)が声をかけてくれたから。

隣に座って相手の話を聞くこと、子供を一緒に遊ばせること、子供が熱を出して早退する同僚に気遣う言葉をかけること。大それたことはできなくても、そうした小さな優しさの積み重ねが、「これが、私の生きる道!」と誰もが誇れる未来に繋がっているのかもしれない。

そんな希望を感じさせるラストに、視聴者から「毎週、詩穂が登場人物みんなが抱える悩みや問題に優しく向き合って、心を溶かしていくのにジーンときた」「ドラマの中で詩穂に救われた人たちはたくさんいたけれど、観ていた私もとても救われたよ」「明日は少しだけ周りの人に優しくしようって思える」「皆それぞれ抱えてる辛さは違うからこそ、お互いを理解して寄り添い合う事が大切だってメッセージが刺さった」と感動の声が上がった。


最終回の視聴はこちらから

配信開始前、または配信終了しています。

全話視聴はこちらから

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